最高裁判所第三小法廷 昭和29年(オ)361号 判決 1955年12月26日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人江尻平八郎の上告理由第一点について。
原審が証拠により適法に認定した事実によれば、被上告人は、売買契約後解除前たる昭和一九年一二月頃までの間に、しばしば上告人に対し、本件家屋の賃借人たる訴外大月某にその明渡をなさしめて、これが引渡をなすべきことを督促し、その間常に残代金を用意し、右明渡があれば、いつでもその支払をなし得べき状態にあつたものであり、他方上告人は、契約後間もなく被上告人と共に大月方に赴き、同人に売買の事情を告げて本件家屋の明渡を求めたものであるというのであつて、かかる場合、買主たる被上告人及び売主たる上告人の双方に履行の著手があつたものと解した原判決の判断は正当としてこれを首肯し得るものである(買主の履行の著手の点につき昭和二四年(オ)第一八九号同二六年一一月一五日第一小法廷判決参照)。所論は原審の事実誤認を主張しこれを前提として原判決の判断を非難するものであつて採るを得ない。
その余の論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。
よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 本村善太郎 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)